《チェ・ウクギョン、アリスの猫》は、韓国の代表的な女性抽象画家チェ・ウクギョン(1940~1985)の芸術世界全般に注目し、美術教育者であり詩人でもあったチェ・ウクギョンの幅広い活動履歴を総体的に眺望しようと準備された回顧展です。特に本展では、チェ・ウクギョン自身の詩集やルイス・キャロルの小説『不思議の国のアリス』(1865)に対する関心など、チェ・ウクギョンの美術が文学と結びつく重層的な視点に注目し、その作品全般を新たに読み解こうとしています。
チェ・ウクギョンは1940年にソウルで生まれ、ソウル芸術高校、ソウル大学絵画科を卒業した後、1963年に渡米し、米国留学後は画家として、また美術教育者として活躍しました。1965年には『Small Stones』という英文詩集を出版して文学に対する自身の関心を初めて示しました。1970年代は韓国と米国を行き来しながら作品制作と講演活動に取り組み、『アリスの猫』を含む詩45編を収録した韓国語詩集『見知らぬ顔のように』(1972)も出版されました。1979年からは嶺南大学と徳成女子大学の教授を務め、韓国の山と島をテーマにした絵画の制作に専念していましたが、1985年にこの世を去りました。
韓国と米国で美術家、教育者、詩人として活発に活動してきたにもかかわらず、チェ・ウクギョンは主に「抽象表現主義美術の影響を受けた米国に感化された画家」あるいは「夭折した悲劇的な女性作家」として認識されてきました。「チェ・ウクギョン、アリスの猫」は、作家の作品を同時代の現代美術および文学との関係を通じて多角的に捉えることにより、チェ・ウクギョンの芸術の位置づけを再考する機会となるはずです。同時に、本展が好奇心から不思議の国への冒険に出発したアリスのように、韓国と米国を行き来しながら常に新しい世界に対する探求を止めなかった女性美術家、チェ・ウクギョンの能動的な生活の履歴とその作品が持つ同時代性が浮き彫りになるきっかけとなることを願います。