国立現代美術館の公募事業《プロジェクトハッシュタグ》は、美術館が従来展示・企画していた視覚-中心的な芸術形態や時間-中心的な芸術形式を超えた新しいプラットフォームを実験するとともに、異なる分野の若手クリエイター間のコラボレーションを支援するために設計されたプログラムです。公募事業の名称「ハッシュタグ(#)」は、ソーシャルプラットフォームで「#」とキーワードを入れるだけで全く異なる文章や投稿を共通テーマで結びつけることができるという革新的な書き込みの方法にちなんでおり、互いに関係のないランダムな文章の中から無量大数の脈絡を作り出す可能性を象徴しています。「プロジェクトハッシュタグ 2021」は現代自動車の後援による5年間のプロジェクトで、2019年にはチーム江南バグとソウル・クィア・コレクティブがショーケースに選ばれました。今回2番目のショーケースとして選ばれたのが、新しい秩序その後…とザ・ダック・アマング・アスです。
《プロジェクトハッシュタグ 2021》は、Webをめぐる体験と環境の進化に共鳴して急速に変化していく人間性に関するMZ世代の作家たちの懸念が反映されているプロジェクトです。パンデミック以後、オンライン上での生活が実際の世界での生活を覆し、人々はオンライン空間の中でこれまで以上に激しく笑い、泣き、楽しみ、怒るようになりました。このように日常生活の中に入ってきたオンラインという空間は、誰が守り、誰が作り、誰がアクセスできるのでしょうか？私たちはオンラインにおける実行者なのでしょうか、それとも傍観者にすぎないのでしょうか？Webという匿名で境界のない空間が人間的価値を歪めたり揺るがしたりしてはいないでしょうか？Webで生じる感情は、現実世界の人間が感じている感情と同じなのでしょうか？これらの問いに答えるために、展示に参加した作家たちは新しい秩序と価値が支配する仮想の空間で起きる人間的価値の拡大と歪みを見つめ、これを材料として実験的な試みを行います。
新しい秩序その後...チームは、自由で開放的であり、倫理的な価値を実現しようとしていた初期のインターネットのユートピア的な期待が、現在のオンライン世界で実現されているかを問いかけ、それを検証します。作家たちは検証のために、Webアクセシビリティ、巨大企業のプラットフォームからの独立性、環境への配慮などの技術倫理的観点に基づいて「＃今年のWebサイト賞」、「＃国立代替美術館」、「＃マイクロデータセンター」などの仮想世界を構築しました。その一方で、展示空間において現在私たちが扱っているデータとWeb空間の「非人間的なスケール」を人間的な視点で見ることができるように視覚的かつ物理的なインスタレーションを一緒に繰り広げます。
ザ・ダック・アマング・アスチームは、オンラインというプラットフォームに積極的に関わっているサブカルチャーに焦点を当て、匿名のサブカルチャーが爆発的に公然と表現する人間の欲望の発現に注目しています。彼らは仮想世界で欲望と消費、死のサイクルを象徴する対象として簡単に消費され捨てられるピクセルアヒルを取り上げ、グルメ番組のように刺激的で刹那的なコンテンツを象徴する「#フーズ・ザ・ダック・アマング・アスチーム？」、性欲と食欲がオーバーラップするウェブ小説「＃今日は君を食べたい」などを披露します。特にウェブ小説「＃今日は君を食べたい」は、展示期間中、ウェブ小説プラットフォームのカカオページに連載してスナックカルチャー（スナック菓子のように手軽に楽しめる文化）と展示を連携し、カジュアルな形式で種差別主義、ハビトゥス、マイノリティ理論などのテーマを紐解く予定です。
展示は《プロジェクトハッシュタグ》公式ホームページprojecthashtag.netで別の階層として行われます。この空間は「＃今年のウェブサイト賞」、「＃国立代替美術館」、「＃何の日辞典」、「＃何の日選集」、「＃今日は君を食べたい」、「＃エゴエコ - エコエコインスタグラム」などのオンラインコンテンツをハイパーテキストとしてリンクさせ、さらに作家が選んだテーマ別ハッシュタグに基づいて作品を再配置し、新しい脈絡を生む役割を果たします。ホームページは、インタビュー、作家ノート、制作過程、ワークショップなど作品の様々なストーリーが組み合わさり、多様な階層で作品を鑑賞できる窓となります。
「プロジェクトハッシュタグ 2021」の2チームが提示しようとする人間的価値の拡大と歪みは、1985年に科学技術がもたらす人間の身体の混成-拡張と歪みを宣言したダナ・ハラウェイの画期的なエッセイ「サイボーグ宣言」（A Cyborg Manifesto）>に通じるものがあります。一方、このような実験的な取り組みによる想像力や代案の模索は、プロジェクトの審査に参加していたヒト・シュタイエル（Hito Steyerl）が指摘したように、資本や政治的権力から自由な公共の領域でのみ可能なものであり、本展はその実践的な模索を通じて新しい世代の未来志向のアジェンダを先取りします。
