アントン・ヴィドクルは、モスクワで生まれ、現在はニューヨークとベルリンを拠点に活動する映像作家です。<全人類に不死を>は、ヴィドクルが2014年から2017年まで「ロシア宇宙主義」に関する同時代的省察を中心に制作した映像作品三部作を紹介します。
「ロシア宇宙主義」は、19世紀後半にロシアのニコライ・フョードロフ(1828~1903)が科学・技術・宗教・芸術を統合して発展させた思想体系です。人間と宇宙は密接につながっているという認識から出発し、新しい領土としての宇宙に向けたSF的想像力とロシア宗教におけるメシア主義が結び付けられ、人間が宇宙と共に進化し、死を克服して不滅の世界に進むことができるという理論です。宇宙主義は、カジミール・マレーヴィチのような芸術家はもちろん、ツィオルコフスキーのような科学者を介して、地球の向こうの世界へ向かって進むロシア宇宙工学発展の実際的な基礎となりました。アントン・ヴィドクルやイリヤ・カバコフ、ボリス・グロイスなど同時代の芸術家や思想家を介して、ロシア宇宙主義に対する関心が高まりました。
アントン・ヴィドクルは、人間の能力が地球という時空間の制約を越えなければならず、死を克服するために多様な技術を開発し、永遠の命を得た人類が居住するために宇宙に進まなければならないというニコライ・フョードロフとその思想的後継者の痕跡を追跡します。また、「使者が復活する場所としての博物館」というフョードロフの概念を視覚的コラージュ形式で再現します。
20世紀初めまで、ロシアの哲学者、科学者、文学家、芸術家に多大な影響を及ぼしたフョードロフの思想は、1917年の共産主義革命以後、長い間研究が禁止されていましたが、1991年の旧ソ連崩壊前後に研究が再開されました。これは、資本主義社会の思想的根幹である合理主義、個人主義、物質主義に対する哲学的代替として、東洋と西洋、哲学と科学、宗教と思想の境界を超えたビジョンを提示するだけではなく、エコフェミニズム・トランスヒューマニズム・ユーラシア談論の核心的価値観として活発に議論されています。本展は、アントン・ヴィドクルの視点を通じて、「ロシア宇宙主義」の核心思想と現在的意味を考察することで、科学技術・哲学・芸術を横断し、知の統合を基盤とした知的談論の形を提示しようとしています。
<作品シノプシス>
1) これが宇宙である(This is cosmos) 2014 31分 HD video
ロシア宇宙主義三部作の最初の作品<これが宇宙である>は、20世紀初めのロシアの哲学運動「宇宙主義」から出発します。シベリア、クリミア半島、カザフスタンで撮影した<これが宇宙である>は、ロシア宇宙主義に関する詩、哲学的著作、科学的著述、学術研究論文、歴史的研究を含む多様な資料に基づいています。特に中心となっているのは、「宇宙のエネルギーが不滅であるため、真の宗教は祖先を崇拝するため、真の社会的平等は全人類を不滅にするものであるため」、死とは一種の間違いだと信じていた哲学者ニコライ・フョードロフの文章です。フョードロフは、生命を延ばし死者を復活させるために、科学的技法を発展させなければならないという急進的な考えを提唱しました。ロシア宇宙主義者にとって、宇宙(cosmos)は、外界を意味するのではなく、彼らは「共産主義のように- 飢餓、病気、暴力、死、欠乏、不平等のない新しい実在を構築するために」、地球上に「宇宙」を作りたいと考えました。ヴィドクルの映画は、ソ連の終末後、現在まで至るこのような哲学を追跡しながらユートピア的な企画を召還します。
2) 共産主義革命は太陽が原因だった(The Communist Revolution Was Caused by The Sun) 2015 34分 HD video
ロシア宇宙主義三部作の二番目の作品で、ソビエトの生体物理学者、アレクサンドル・チジェフスキーの太陽宇宙主義を詩的に探求しています。チジェフスキーが収監生活と流刑生活を送っていたカザフスタンで撮影し、太陽の熱が放出されることによって、人類の社会学、心理学、政治学、経済学に影響を与え、戦争、革命、伝染病や他の危機を起こすというチジェフスキーの研究を紹介します。
3) 全人類に不死と復活を！(Immortality and Resurrection For All！)2017 34分 HD video
ロシア宇宙主義三部作の最後の作品で、ロシア宇宙主義の思想家、科学者、前衛的な芸術家にとって核心概念である復活の場所としての博物館に対する考察が盛り込まれています。トレチャコフ美術館、モスクワ動物学博物館、レーニン図書館(現 ロシア国立図書館)、革命博物館などで撮影し、ニコライ・フョードロフが1880年代に作成した文章に続いて、生命の物質的保存の手段として、収集、復元、保存のための博物館学的かつアーカイブ的な技法について考察しています。今日もフョードロフを追従する人物やファラオ・ハウンドが登場し、ミイラとして復活して、マルケヴィチの「黒い正方形」、ロドチェンコの空間構成及び剥製の動物、ロシア革命期の遺物、骸骨、マネキンを近くで観察する人物を演じます。
アントン・ヴィドクル(1965 ~)
Anton Vidokle at NASA Space Center、Houston、2018.Photo Toby Kamps
芸術家であり、e-fluxの編集者でもあるアントン・ヴィドクルは、モスクワで生まれ、ニューヨークとベルリンを拠点に活動しています。彼の作品は、第13回カッセルドクメンタ、第56回ヴェネチア・ビエンナーレ、ノルウェーのベルゲン・アッセンブリー、上海ビエンナーレ、第65/66回ベルリン国際映画祭フォーラム・エクスパンデッド部門、ポンピドゥー・センター、テート・モダン、モスクワ現代美術館「ガレージ」、イスタンブール・ビエンナーレ、ベルリン世界文化の家、スウェーデンのテンスタコンストハーレ、米国テキサス州ブラッファー画廊、アムステルダム市立近代美術館などで紹介されました。
